患者さまのお悩み

2018年2月27日 火曜日

良薬口に甘し(続)

 漢方では「良薬口に苦し」ではなく「良薬口に甘し」というのだと、私は医学生のとき、漢方研究会の顧問の石原明先生からお聞きしました。最近ではしばしば耳にするようになり、多少陳腐な感じになってしまいましたが、そのときはとても新鮮で、感心した覚えがあります。
 動物は本能で自分の身体に必要なものがわかります。石原明先生はペットの病気を漢方薬で治療しておられました。その方法は、この動物の本能を利用するのです。つまり、その動物の病気に効きそうな漢方薬を何種類か選び、動物の近くに置いてやるのです。動物は自分の身体に必要な薬が本能的に、においなどでわかるらしく、身体に必要な薬(病気が治癒する薬)のところに行き、その漢方薬を飲む(なめる?)そうです。薬を飲めばしめたもので、その病気の動物は治るといっておられました。
 人間も動物なので、この本能があるはずで、身体にあっている薬はにおいも味も良く感じるはずで、それが「良薬口に甘し」なのです。疲れたりすると、甘いものが欲しくなるのも、これと似たようなことだと思われます(ただし、甘いもののとりすぎはよくありません、念のため)。
 例外もあります。漢方薬の桂枝茯苓丸を処方した患者さんがいたのですが、粉薬は苦手だというのです。身体に適した薬であれば、おいしく飲めるはずだと思い、粉薬で処方したのですが、理論どおりにいかず、患者さんは薬を飲めませんでした。自信を持って処方したにもかかわらず、予想外の結果にどうするか悩みました。粉薬だから薬が飲めないのか、薬が身体に適していないから飲めないのかわからないのです。迷った末、自分の診断を信じ、処方は桂枝茯苓丸のままとし、粉薬を丸薬に変更して投薬しました。今度は薬の内服に問題はなく、その結果、病気も良くなりました。
 漢方薬が身体に合っていていれば、必ず飲みやすいというわけではないようです。逆に、おいしく飲めても、身体に絶対適していると考えてはいけないということも悟りました。

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2018年1月26日 金曜日

良薬口に甘し

 漢方では「良薬口に苦し」ではなく「良薬口に甘し」としばしばいわれます。どういうことかというと、その人のからだにあっている薬(漢方薬)は、まずい薬でもおいしく(飲みやすく)感じるということです。逆にその人のからだにあっていない薬(漢方薬)は、おいしいはずの薬でもまずく(飲みにくく)感じるということも意味します。これは煎じ薬ですと味がダイレクトなのでわかりやすいですが、顆粒などの薬は乳糖など加えてあるのでわかりにくいということはありますが。黄連解毒湯という極めて苦く、まずい薬があります。身体に合っている人は、おいしいとはいいませんが、意外に平気で飲めてしまい、まずいとはあまり言いません。これをからだに合わない人に飲ませると、まずいし、飲みにくい、無理に飲むと気持ち悪くなると訴えたり、実際身体の不調もしばしばおきます。
 この考え方で漢方薬が適切かどうかある程度判断ができます(絶対ではありませんので、念のため)。漢方薬を飲んで、おいしく感じていればまず問題ありません。おいしく感じなくても、飲んで特に問題なければ(この場合が一番多いかと思います)、これも大丈夫でしょう(毒にも薬にもなっていないという場合もありますが)。まずいのを我慢して飲んだが、気持ち悪くなるなど不快な症状が起きない場合も大丈夫でしょう(まずいのに問題なく飲めたのですから、逆に薬があっている可能性は高いです)。においがダメというのは、薬があっていない可能性があります。おいしく感じようが、まずく感じようが、飲んだ後に気持ち悪くなるなどの不快な症状が出る場合も、薬が適切ではない可能性がかなり高いです。いつも飲んでいた薬が、風邪ひたり、胃腸の中止が悪くなって飲みにくくなる場合は、その間休薬するほうが無難です(なんでもない場合は飲み続けてかまいません)。大概は風邪などによる一時的な変調なので、風邪などが治れば普通に飲めるようになります。同じ薬を問題なく飲めていたものが、飲みにくくなった場合は、何か変化があったと考えられるので、休薬して診察してもらうとよいです。このような感じで漢方薬が適しているかどうかある程度判断できますが、絶対ではありませんのであしからず。

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2017年11月29日 水曜日

睡眠について

 昔に比べ睡眠時間が少ない人が増えています。実際、厚生労働省の統計でも、睡眠時間は短くなってきています。少ない人では5時間以下、6時間くらいの人はざらにというか、普通になっている気がします。私は7時間以上寝ないと頭が働かないので、7時間眠ったら寝すぎという人が多いのにも驚きます。
 睡眠時間が短くなるのは時代の流れだろうと思っていたのですが、どうも違う気がしてきました。睡眠時間が短い人はパソコンや携帯電話、ゲームなどの使用時間が長く、眼を酷使している人が多いからです。眼を酷使すると、睡眠の質が下がる上に、寝つきが悪くなる、疲れていてもなかなか眠れない、朝早く目が覚めてしまいそれ以上眠れないなどの症状が出ます。つまり眼を酷使することことで眠れなくなり、寝ようとしても眠れないので睡眠時間が短くなっているのではないか?と考えるようになりました。眼の使いすぎで寝ていることができない、眠れないのなら起きている方がよい、眠れないのだから睡眠時間は足りているということになり、寝る時間が少なくなっているように思います。やりたいことが多くて睡眠時間を削っているというより、眠れないので睡眠時間を短くしてしまっているということです。
 しかし、睡眠時間が少なくてよい身体になったわけではないので、これは健康に良いわけがありません。もしかすると睡眠時間が少ないので体調不良になり、田中医院に来るのか?と思えるほど眼を酷使している人が医院に来ます。アメリカの研究ですが睡眠時間は7~9時間の人が健康的で病気が少ないそうです。個人の体質を重視する漢方ではその人その人によって適正な睡眠時間は違うと考えるので、時間にはあまりこだわりませんが、現在の睡眠時間と質の悪さは異常に思えます。
 朝起きるのがつらい、疲れているのに眠れない、頭が重い、眼の奥が痛い、疲れやすい、眠いのに寝つきが悪い、肩こりがひどいなどの症状がある場合は、眼の使いすぎを疑ってみるべきです。睡眠は大事です。質の良い睡眠とある程度の時間を取らなければ、1日の疲労が回復するわけがありません。そうでなければ疲労が溜っていき、病気になるだけです。パソコンやスマホ、テレビ、本などを止めて眼を休ませ、質の良い睡眠とある程度の睡眠時間を取りましょう。

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2017年10月30日 月曜日

生薬について 3の続き

 前回、「トリカブトは猛毒だが、漢方薬の附子という生薬として使われている」ということを書いたら、「附子に毒はないのですか?」ときかれました。説明が足りなかったようなので、補足しておきます。
 エキス剤で使われている附子の毒はまず心配要りません。メーカーが十分管理して、毒性を減らすようにしていますし、使用量も保険では2g程度までなので、トラブルはないです。あったとしたら、毒ではなく副作用だと思います。煎じ薬として使う附子は、加熱したり、塩につけたりするなどいろいろな方法で毒性を減らしたものが使われます。やはり多量に使われない限り、問題ありません。量が多いと、まれですが中毒が起きることがありますが、大きなトラブルにはなりません。購入した附子を念のためもう一度火にかけ、毒性を減らして処方するところもあります。もともとが毒なので、過剰なくらい管理されています。
 紙数が余ったので、蛇足です。「2000年ほど前より、東洋西洋ともにトリカブトの毒とサソリの毒が打ち消しあうということが知られていた」ということを「発見」したのは、大塚恭男先生(漢方界で知らない人はない有名な先生です)で、私は医学生の頃にこのことを知りました。医学生のとき東洋医学研究会という漢方のクラブに入っていたのですが、部室になぜか古びたサソリの乾燥品が置いてありました。漢方薬のクラブなので、生薬があるのはおかしくはありませんが、サソリはまず使う生薬ではありませんし、高価で学生のクラブには異質なものでした。なぜサソリがあるのか不思議に思っていました。私が学生の時はそうではありませんでしたが、大塚恭男先生は横浜市立大学の講師でいらして、東洋医学研究会の顧問でした。また部員に優秀な医学生、丁宗鉄先生(しばしばマスコミに登場する有名な先生です)がいらしたので、トリカブトとサソリの毒が打ち消しあう研究をさせようとしてサソリを手に入れたようで、その遺物が部室に残っていたのでした。丁先生からその話を聞かされて、サソリが部室にある理由がわかり、トリカブトとそそりの毒が打ち消しあうことを知ったのでした。40年にはなる昔の話です。

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2017年10月 6日 金曜日

生薬について 3

 今回は附子(ブシ)という生薬のお話です。附子はトリカブトという植物の根から取れます。「えーーー!!」と、トリカブトをご存知の方は、驚かれるかもしれません。というのも、トリカブトは猛毒で有名な植物で、少し前、殺人事件で使われたりしたのですから。昔の毒薬というと、トリカブトといってもよく、世界中で使われていた有名な毒をもった植物です。これを漢方では薬として使っているのです。
 古代ローマのプルニウスが著した『博物誌』に毒としてトリカブトは記載されており、「豹殺し」の別名があります。また面白いことに、トリカブトの毒はサソリの毒と打ち消しあうということも書かれています。まさに「毒をもって毒を制す」です。『博物誌』はAD.1C頃の本ですが、東洋ではこれよりも少し早い時期に同じようなことがわかっています。BC.239年に著された『呂氏春秋』です。秦の国の呂不韋が編集した本で、内容の誤りを一字でも正すことができたならば、千金を与えると豪語されたことで有名な本です。これにもなんと、トリカブトの毒はサソリの毒といっしょにすると毒が消えるという記載があるのです。東西交通もなかった頃なので、それぞれ独自の世界でこのことを発見したと思われますが、発見したことも、内容が一致していることにも驚きを感じます。
 毒が打ち消しあうという記載は、別々に発見されていることからも信憑性の高いことと思もわれます(昔の本には誤りがしばしばあります)。東西交通によってではなく、独自に発見したというのは、トリカブトについての記載の違いからも予想されます。西洋ではトリカブトは毒としてしか記載はなく、医療用の使用は否定されていますが、中国では毒の記載もありますが、ご存知のように薬(附子)の記載もあるのです。トリカブトは熱を加えると毒性が弱まり、薬、附子として使用できるのです。附子は身体を温め、関節痛や知覚麻痺、手足の冷えなどを治すきわめて重要な薬ですが、このことに気がついた古代東洋人の知恵に感心してしまいます。偶然わかったことなのでしょうが、どうして猛毒を薬として使うようになったのか知りたいところです。漢方がさまざまな病気に対応し、治療が可能で、現在でも十分通用するのは、猛毒でも治療薬に使用してしまう知恵に秘密がある気がします。

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