患者さまのお悩み

2017年10月30日 月曜日

生薬について 3の続き

 前回、「トリカブトは猛毒だが、漢方薬の附子という生薬として使われている」ということを書いたら、「附子に毒はないのですか?」ときかれました。説明が足りなかったようなので、補足しておきます。
 エキス剤で使われている附子の毒はまず心配要りません。メーカーが十分管理して、毒性を減らすようにしていますし、使用量も保険では2g程度までなので、トラブルはないです。あったとしたら、毒ではなく副作用だと思います。煎じ薬として使う附子は、加熱したり、塩につけたりするなどいろいろな方法で毒性を減らしたものが使われます。やはり多量に使われない限り、問題ありません。量が多いと、まれですが中毒が起きることがありますが、大きなトラブルにはなりません。購入した附子を念のためもう一度火にかけ、毒性を減らして処方するところもあります。もともとが毒なので、過剰なくらい管理されています。
 紙数が余ったので、蛇足です。「2000年ほど前より、東洋西洋ともにトリカブトの毒とサソリの毒が打ち消しあうということが知られていた」ということを「発見」したのは、大塚恭男先生(漢方界で知らない人はない有名な先生です)で、私は医学生の頃にこのことを知りました。医学生のとき東洋医学研究会という漢方のクラブに入っていたのですが、部室になぜか古びたサソリの乾燥品が置いてありました。漢方薬のクラブなので、生薬があるのはおかしくはありませんが、サソリはまず使う生薬ではありませんし、高価で学生のクラブには異質なものでした。なぜサソリがあるのか不思議に思っていました。私が学生の時はそうではありませんでしたが、大塚恭男先生は横浜市立大学の講師でいらして、東洋医学研究会の顧問でした。また部員に優秀な医学生、丁宗鉄先生(しばしばマスコミに登場する有名な先生です)がいらしたので、トリカブトとサソリの毒が打ち消しあう研究をさせようとしてサソリを手に入れたようで、その遺物が部室に残っていたのでした。丁先生からその話を聞かされて、サソリが部室にある理由がわかり、トリカブトとそそりの毒が打ち消しあうことを知ったのでした。40年にはなる昔の話です。

投稿者 田中医院 | 記事URL

2017年10月 6日 金曜日

生薬について 3

 今回は附子(ブシ)という生薬のお話です。附子はトリカブトという植物の根から取れます。「えーーー!!」と、トリカブトをご存知の方は、驚かれるかもしれません。というのも、トリカブトは猛毒で有名な植物で、少し前、殺人事件で使われたりしたのですから。昔の毒薬というと、トリカブトといってもよく、世界中で使われていた有名な毒をもった植物です。これを漢方では薬として使っているのです。
 古代ローマのプルニウスが著した『博物誌』に毒としてトリカブトは記載されており、「豹殺し」の別名があります。また面白いことに、トリカブトの毒はサソリの毒と打ち消しあうということも書かれています。まさに「毒をもって毒を制す」です。『博物誌』はAD.1C頃の本ですが、東洋ではこれよりも少し早い時期に同じようなことがわかっています。BC.239年に著された『呂氏春秋』です。秦の国の呂不韋が編集した本で、内容の誤りを一字でも正すことができたならば、千金を与えると豪語されたことで有名な本です。これにもなんと、トリカブトの毒はサソリの毒といっしょにすると毒が消えるという記載があるのです。東西交通もなかった頃なので、それぞれ独自の世界でこのことを発見したと思われますが、発見したことも、内容が一致していることにも驚きを感じます。
 毒が打ち消しあうという記載は、別々に発見されていることからも信憑性の高いことと思もわれます(昔の本には誤りがしばしばあります)。東西交通によってではなく、独自に発見したというのは、トリカブトについての記載の違いからも予想されます。西洋ではトリカブトは毒としてしか記載はなく、医療用の使用は否定されていますが、中国では毒の記載もありますが、ご存知のように薬(附子)の記載もあるのです。トリカブトは熱を加えると毒性が弱まり、薬、附子として使用できるのです。附子は身体を温め、関節痛や知覚麻痺、手足の冷えなどを治すきわめて重要な薬ですが、このことに気がついた古代東洋人の知恵に感心してしまいます。偶然わかったことなのでしょうが、どうして猛毒を薬として使うようになったのか知りたいところです。漢方がさまざまな病気に対応し、治療が可能で、現在でも十分通用するのは、猛毒でも治療薬に使用してしまう知恵に秘密がある気がします。

投稿者 田中医院 | 記事URL

田中医院 tel:03-3266-1407