患者さまのお悩み

2018年6月30日 土曜日

「腎臓」が悪い?

「腎臓が悪いといわれました」といって来院するかたがときどきいます。同じように「肝臓が悪い」といわれたという人もいます。こういう場合、検査しても腎臓も肝臓も異常ないことがほとんどです。なぜ異常ないかというと、鍼灸師や薬剤師など東洋医学関係のところで「腎臓」や「肝臓」が悪いといわれているからです。東洋医学関係の人がうそを言っているのかと誤解されそうですが、そうではありません。東洋医学でいう「腎臓」や「肝臓」が悪いといっているのです。つまり東洋医学でいう「腎臓」や「肝臓」は現代医学でいう腎臓や肝臓とは別のものなのです。別のものであれば、検査で異常が見つからなくても当然なわけです。
現代医学でいう腎臓は解剖学が基礎となっています。腰の付近に対になってあるソラマメに似た形をした臓器を腎臓と名づけ、この臓器がどのように働いているか研究されてきたのが現代医学の腎臓です。東洋医学の「腎臓」は生体で内分泌系や泌尿生殖系などの働きをするものとして「腎臓」を考えたのです。具体的な臓器はあとから当てはめただけです。つまり、東洋医学の「腎臓」は、臓器を指しているのではなく、東洋医学でいう「腎臓」の働きのことをいっていると思ってもらえればよいと思います。「肝臓」も同じです。現代医学の肝臓は腹部の右上にあり、横隔膜の下にある大きな臓器を指しますが、東洋医学では自律神経、血液の循環の調整機能などの働きを「肝臓」というのです。
 したがって東洋医学で「腎臓が悪い」といったら、内分泌や泌尿生殖系などの働きがよくないということです。現代医学のいう血液のろ過機能などが悪いという意味ではないのです。鍼灸師など東洋医学関係の人は「腎臓が悪い」といわずに「東洋医学の腎臓が悪い」といえばよいのに、現代医学の腎臓と混乱するように「ジンゾウが悪い」というので、誤解が生じるのです。しかしこれは、東洋医学の人にいわせれば、現代医学の人は腎臓といわずに「現代医学でいう腎臓」といえばいいのだ、といわれそうで、こういわれると返す言葉はありません。そもそも腎臓や肝臓という言葉は東洋医学のためにあったもので、それを杉田玄白らが『解体新書』でドイツ語を訳すのに東洋医学の用語を使ったのです。そう考えると、東洋医学の方に優先権があるように思えます。
 東洋医学関係の人に腎臓や肝臓が悪いといわれても、驚かないでください。

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2018年5月30日 水曜日

水分を取り過ぎないようにしましょう

暑くなってきたので、水分取りましょうコールが始まりました。それを支持するような最近のアメリカでの研究がありました。喉は渇いていなくても、胃の中の水分量が少ないと、男性自転車競技選手のペダルをこぐ力などが低下する、渇いていなくても水分を取ったほうが運動能力が向上するというものです。どう思いますか?
こういう研究は批判にさらされて、正しいものだけが残っていくので、信頼できるものかどうかは、まだなんともいえません。しかし、スポーツ界にはインパクトのある研究と思います。この研究に従えば、運動選手は絶えず水分を取っているほうが運動能力が低下しなくて良いわけです。水分を余分に取ってもさほど問題がおきるとは思われませんので、この研究を知った運動選手はとりあえず水分を取っておこうということになるのではないかと思います。すると私たちはスポーツ観戦をすると、選手たちが絶えずといえるほど水分補給をする姿を目にするわけです。
 ここまでは問題ないのですが、これが拡大解釈されていくのが心配です。スポーツ界で渇く前に水分を取るほうが良いというのが一般的になると、一般の人も渇く前に水分を取るほうがよいというのが広まり、喉が渇く前に水分を取りましょうになってしまうことです。この研究は、渇く前に水分を取った方が運動能力が高まるといっているだけで、渇く前に水分を取っているほうが熱中症にならない、あるいは仕事能力が高まるというようなことを示した研究ではないのです。にもかかわらず、渇く前に水分を取りましょう、熱中症を予防できるし、身体にもよいなどという誤った解釈が幅を利かせてくる気がします。この研究では水分取りすぎて食欲を落とすなどの胃腸への影響については考慮されていませんし、熱中症が予防できるという研究でもありません。運動能力についての研究です。
 クーラーの効いたオフィスで一般人が水分を過剰に取ってよいことなどありません。食欲は落とすし、身体は冷えるし害が多いので、一般の人は特別な事情がない限り、水分を過剰にとるのは控えましょう。

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2018年4月28日 土曜日

サプリメントを飲むなら・・・

サプリメントを飲む人が多くなってきたので、ふと思い浮かびました。
紀元前頃に書かれた『神農本草経』という薬物の有名な本があります。この本は生薬を上薬、中薬、下薬の3種類に分類しています。下薬とは「病を治す薬で、毒性が強いので、長きにわたっての連用は慎むべき」と説明され、附子や大黄などの生薬125種類が記載されています。これは現代でいう薬のことでは?と思うような説明です。現代薬の頭痛薬や風邪薬などの薬は具合の悪いときにだけ使用し、通常は連用しません。
 中薬は「養生の薬で、人に応じて無毒と有毒があり、適時配合して病を防ぎ、体力を補う」とあり、麻黄や牡丹皮などの生薬120種類が記載されています。現代薬の血圧を下げる薬や糖尿病薬、コレステロールの薬などはこれに近いように思います。たとえば、降圧剤は血圧の高い人には血圧を下げ、益となりますが、血圧が高くない人には血圧を下げすぎて害となります。糖尿病薬も血糖の高いのを下げるので、血糖値の高い人には益となりますが、普通の人には低血糖を起こし、害となります。この分野の薬は最近特に進歩してきましたが、『神農本草経』の中薬に似ていると思います。上薬とは「命を養う薬で、毒性は無く、多量に、長期服用しても人を害することはない。身を軽くし、気力を益す不老長寿の薬」と説明され、人参(いわゆる朝鮮人参)や大棗などの生薬120種類が記載されています。上薬は薬というより食べ物に近いものです。現代では、サプリメントがこれに近いかもしれませんが、サプリメントの過剰摂取は良いものとは思えず、また「身を軽くし、気力を益す不老長寿の薬」とも思えないので、上薬の方が高級な薬と思います。
 ここで感じるのは、現代薬が次第に漢方の考える薬に近づいてきているということです。現代薬は、漢方の下薬(病気のときにだけ飲む薬)に近いものでしたが、次第に中薬(状態に合わせて飲むと、健康に良い)という薬も重視されるようになり、上薬(寿命を延ばす薬)も必要という考えに変わってきました。そう考えると、最近でてきたサプリメントなどよりも、昔からの蓄積データがあり、効果も優れている漢方薬を飲んだほうがいいのでは、と思ってしまうのでした。

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2018年3月30日 金曜日

良薬口に甘し(続々)

「良薬口に甘し」は、本能に基づいたものだということを前回書きました。現代医学ではこういう考えはありません。薬はまずいものであり、副作用があるのが当たり前、という考えです。漢方では身体にあっていれば薬はおいしく、(必ずしも正しくはありませんが)副作用がないと考える立場と対照的です。現代医学では薬を内服すると気持ち悪くなる、食欲が落ちるなどは、普通にある副作用ということで片付けられます。胃薬を同時に内服してもらったり、投薬するのを中止しておしまいとなります。その薬が患者に適しているから副作用が少ないとか、逆に適していないから副作用が強い等々で処方をどうするか考えることはありません。そういう考え方がないのです。
 現代薬は薬をできる限り単一成分にして使います。病気に有効な植物などがあったなら、その中から余分なものを取り除き、一番有効と思われる物質のみに精製し、単一の物質にして使用します。たとえば、柳の樹皮から抽出され、合成されたアスピリンやキツネノテブクロ(ジギタリス)という植物から抽出された強心薬のジゴキシンなどが有名です。こういう精製された物質に対し、本能で良い悪いなどの判断ができるわけがありません。ジャガイモやサツマイモを精製してデンプン粉にしたら、本来の芋のおいしさがなくなり、味気のないものとなり、おいしいまずいなど判断できなくなるのと同じです。本能というのはおそらく今までの遠い先祖からの経験の蓄積と考えられますから、今までに接したことがない新しい物質にはお手上げです。本能を働かしようがないのです。
 そういうわけで、現代薬はまずくて当たり前かもしれなく、「良薬口に苦し」が当然のことで、本能を利用する「良薬口に甘し」という考えが入る余地はないのです。現代人は本能を使うことに慣れていないので、本来は「良薬口に苦し」のほうが奇異にもかかわらず「良薬口に甘し」というと、奇異に思ってしまうのです。現代薬に不信感を持つ人はこういうこともあるのかもしれません。

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2018年2月27日 火曜日

良薬口に甘し(続)

 漢方では「良薬口に苦し」ではなく「良薬口に甘し」というのだと、私は医学生のとき、漢方研究会の顧問の石原明先生からお聞きしました。最近ではしばしば耳にするようになり、多少陳腐な感じになってしまいましたが、そのときはとても新鮮で、感心した覚えがあります。
 動物は本能で自分の身体に必要なものがわかります。石原明先生はペットの病気を漢方薬で治療しておられました。その方法は、この動物の本能を利用するのです。つまり、その動物の病気に効きそうな漢方薬を何種類か選び、動物の近くに置いてやるのです。動物は自分の身体に必要な薬が本能的に、においなどでわかるらしく、身体に必要な薬(病気が治癒する薬)のところに行き、その漢方薬を飲む(なめる?)そうです。薬を飲めばしめたもので、その病気の動物は治るといっておられました。
 人間も動物なので、この本能があるはずで、身体にあっている薬はにおいも味も良く感じるはずで、それが「良薬口に甘し」なのです。疲れたりすると、甘いものが欲しくなるのも、これと似たようなことだと思われます(ただし、甘いもののとりすぎはよくありません、念のため)。
 例外もあります。漢方薬の桂枝茯苓丸を処方した患者さんがいたのですが、粉薬は苦手だというのです。身体に適した薬であれば、おいしく飲めるはずだと思い、粉薬で処方したのですが、理論どおりにいかず、患者さんは薬を飲めませんでした。自信を持って処方したにもかかわらず、予想外の結果にどうするか悩みました。粉薬だから薬が飲めないのか、薬が身体に適していないから飲めないのかわからないのです。迷った末、自分の診断を信じ、処方は桂枝茯苓丸のままとし、粉薬を丸薬に変更して投薬しました。今度は薬の内服に問題はなく、その結果、病気も良くなりました。
 漢方薬が身体に合っていていれば、必ず飲みやすいというわけではないようです。逆に、おいしく飲めても、身体に絶対適していると考えてはいけないということも悟りました。

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