生薬の話の続きです。前回、動物由来の生薬はあまり使われないと書きましたが、保険薬として使われているものは、次の3つしかないようです。セミの抜け殻(「蝉退」といいます)と動物の皮を煮詰めた液を固めたもの(「阿膠」といいます)、カキの貝殻(「牡蠣」といいます)の3つです。動物は植物のように栽培して収穫ということが難しく、安定して供給されないため、利用しにくいのです。保険薬で使われているものは、安定供給されやすい(=あまり高くない)からですが、おそらく、飲みにくくないという理由もあるのではないかと思います。「飲みにくい」というのは、まずいという意味よりも、心理的抵抗という意味です。たとえば、ゴキブリ(「しゃ虫」といい、普通に見られるゴキブリではありません)を生薬として使うのです。煎じるとき、これを見たらぎょっとしますし、飲む気にならないですよね。普通はわからないように粉にしますが、中身を知ったら、人にもよりますが、飲み続けられるかどうか疑問です。値段も意外なことに高く、変動は多いですが朝鮮人参並みの価格はします。アブ(「虻虫」といいます)も生薬として使われますが、その姿を見て煎じ液を飲めますか?実は試しにと思い、昔、虻虫を煎じて飲んだことがあります。煎じ液には脂のようなものが浮き、不気味で気持ち悪く、少量口に含み飲むのがやっとでした。味は覚えていられないくらい心理的動揺は大きかったです。価格も、これはしゃ虫よりもはるかに高く、続けて飲める価格ではありません。こういうため、あまり使われることはないようです。
 見た目はともかく、価格の面で使いにくいものも多いです。その代表が牛の胆石(「牛黄」といいます)です。牛の胆石が薬となることも意外かもしれませんが、それより値段が高い!桐の箱に入り、数グラムで数万円で売られていても、驚くことはありません。相場です。他に高いものに熊の胆嚢(「熊胆」といいます)があります。これは入手困難な上、泣く子が黙るくらい値段は高いです。まだ高いものはたくさんありますが、要するに動物性生薬は高くてのみにくいのです。

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